概要

2025年6月22日、鹿児島・宮崎県境の霧島連山に位置する新燃岳が7年ぶりに噴火しました。Synspectiveの小型SAR(合成開口レーダー)衛星「StriX」は、この活発な火山活動に対し、高頻度かつ高分解能な緊急観測を実施。天候や噴煙に左右されずに地表の微細な変化を連続的に捉え、火山活動のモニタリングにおけるSAR衛星の有効性を示しました。

 

背景

新燃岳は日本で最も活発な火山の一つです。特に2011年の大規模噴火では大量の火山灰が周辺地域に降り注ぎ、社会・経済活動に大きな被害をもたらしました。また、7年前の2018年にも噴火が発生するなど、活動を繰り返す特徴があります。住民の安全確保やインフラへの影響を最小限に抑えるためには、噴火の兆候や活動の推移を正確に、そしてタイムリーに把握することが不可欠です。

 

課題:天候と観測頻度に阻まれる火山観測

火山活動の監視には、地表のわずかな変化を捉えることが求められます。しかし、従来の衛星による観測頻度には課題がありました。

> 天候の影響: 光学衛星での観測は、雲や噴煙に覆われていると地表の様子がわからず、特に梅雨や台風の時期には観測機会が限られます。

> 観測頻度の限界: 従来の衛星では、同一地点を観測できる頻度が数日おきになることが多く、日々の活発な変化を追いかけることが困難でした。

 

ソリューション:全天候型・高頻度観測

Synspectiveの小型SAR衛星「StriX」は、自ら電波を照射し、その反射を捉えるため、雲や噴煙を透過し、夜間でも地表を観測できます。これにより、悪天候や噴煙が続く中でも火山活動に伴う地形変化を捉えることが可能です。

StriXは、単機でも高い頻度で観測機会を持ちますが、複数の衛星を協調して運用する「衛星コンステレーション」により、同一地点の観測頻度を飛躍的に向上させ、これまで見逃されてきた短期間での変化も詳細に監視できるようになります。今回はStriXの高い性能を活かし、噴火活動中の新燃岳を連日観測し、変化を捉えることに成功しました。

 

StriXによる観測結果

StriXによる高頻度・高分解能観測から、火口周辺で進行する複数の変化が明らかになりました。

1) 火口内の地形変化を鮮明に可視化

噴火前(2月26日)と噴火活動中(6月28日、7月3日)のSAR画像を比較すると、火口内に新たな地形の変化が生じていることが確認できます。StriXは最高分解能 0.46 m x 0.25 m(注)で、噴火による微細な変化を詳細に捉えました。
(注)データ製品の仕様はこちらから:https://synspective.com/jp/document/

 

噴火前のSAR (強度) 画像 (2025-02-26)

© Synspective Inc.

注:図中の矢印は衛星の進行方向と観測方向を示します

 

噴火活動中のSAR (強度) 画像 (2025-06-28)

© Synspective Inc.

 

噴火活動中のSAR (強度) 画像 (2025-07-03)

© Synspective Inc

 

拡大図

© Synspective Inc.

 

StriXが捉えた新燃岳の噴火前と噴火活動中の比較。火口内の地形が変化している様子がわかります。

 

2) 干渉SAR解析による微小な地表変化の検出

観測条件が同一の2時期に観測したデータを比較する「干渉SAR」解析は、強度画像では判別できない地表面の微小な変化や地表変位を捉える手法です。今回は、異なる機体ながら撮像条件がほぼ同一であった6月29日と7月1日のデータを使用。その結果、この2日間の降灰によるとみられる、強度画像だけでは判別困難な変化を検出しました。

2025-06-29と2025-07-01  観測データのペア

a)干渉SAR(コヒーレンス)画像

© Synspective Inc.

 

b) 強度カラー合成画像

© Synspective Inc.

 

a) 干渉SAR(コヒーレンス)画像では、噴火でわずかな変化があった領域(色が暗い部分)が見られます。

b) 強度カラー合成画像では、地表面の同様な変化を明確に見ることができません。

これらの結果は、他のSAR衛星(Sentinel-1、ALOS-4)による観測結果とも整合的であり、StriXのデータの信頼性の高さを裏付けています(Sentinel-1の解析結果は参考3、国土地理院が公表したALOS-4の解析結果は参考4をご参照ください)。

 

今後の展開

Synspectiveは、今後もStriXによる火山活動の継続的な観測を実施し、その推移を見守っていきます。SAR衛星による全天候型・高頻度観測の能力を最大限に活用し、防災・減災に関わる政府機関や自治体、研究機関への情報提供を通じて、安全・安心な社会の実現に貢献していきます。

 

 

参考

1) 分析に利用したStriX観測データ一覧

注1:
MIO: Mid-Inclination Orbit (傾斜軌道)
SSO:Sun-Synchronous Orbit (太陽同期軌道)

注2:
ST:Staring Spotlight
SL:Sliding Spotlight
SM:Stripmap

 

2) 使用DEM:国土地理院基盤地図情報(数値標高モデル)1mメッシュ(標高)

陰影起伏図

 

3) Sentinel-1観測データ
2025-06-19 (噴火前)と2025-07-01 (噴火活動中)のペア
干渉SAR(コヒーレンス)画像

© Copernicus Sentinel data [2025]

 

強度カラー合成画像

© Copernicus Sentinel data [2025]

 

 

4) ALOS-4観測データ
霧島山の地殻変動(2025年4月2日発表) | 国土地理院