最近、お客様との会話で特に興味深いのは、もはや特定のセンサーデータに関する要望から会話が始まるわけではない、という点です。その代わりに、単一のセンサーでは解決できない、現実世界における「ミッション(課題)」について話し合います。例えば、24時間365日の港湾監視を必要とする防衛機関、災害後の被害状況を迅速に評価しなければならない保険会社、あるいは、位置情報の発信が途切れた船舶を追跡するNGOなど、その内容は多岐にわたります。
このような複雑なミッションに数年間取り組んできた結果、私は「データフュージョン」(複数の情報源から得た情報を一つに統合すること)が不可欠であると確信するようになりました。これには、複数の合成開口レーダー(SAR)衛星のような同種のセンサーを組み合わせる場合もあれば、SAR、無線周波数(RF)、光学(EO)、さらにはオープンソース・インテリジェンスといった、性質の異なる情報(モダリティ)を統合する必要がある場合も少なくありません。
お客様が真に求めているのは、「どのセンサーを使うべきか」という問いへの答えではありません。むしろ、「目の前のミッションに対し、複数のデータセットを最適に組み合わせ、実用的なインサイトを得るにはどうすればよいか」という、より本質的な問いへの答えなのです。この変化は、私たちが様々な市場のお客様にインテリジェンスを提供する方法そのものを再構築しています。
個々のセンサーが限界に達するとき
具体的な例を挙げてみましょう。あるお客様から、特定の地点の画像を1日に複数回提供してほしいという依頼がありました。Synspectiveは2030年までに30基の衛星コンステレーションを構築し、地球上のあらゆる場所を1時間以内に再訪できる体制を目指しています。目標には着実に近づいていますが、まだ実現には至っていません。この課題に対する従来の答えは「もっと多くの衛星を打ち上げる」ことでした。しかし、私たちはより革新的なアプローチ、すなわち業界で「仮想コンステレーション」と呼ばれるものを構築することで、この課題に応えようとしています。
現実には、たとえ自社の衛星がある領域の上空を通過するタイミングだとしても、すでに他の顧客の撮像予約が入っていて、新たなリクエストに応えられない場合があります。そこで「仮想コンステレーション」が活躍します。これは、複数の提供元から得られる、多様なモダリティを持つ衛星やセンサーで構成されます。これを活用することで、どのセンサーがいつ撮像可能かという「空き状況」をリアルタイムで把握し、お客様にタイムリーな情報を提供できるようになるのです。
それぞれのモダリティとセンサーは、このコンセプトに異なる強みをもたらします。光学センサーは、人間が直感的に解釈できる画像を提供します。また、太陽光の反射から、特定の物体や特徴が持つ固有の情報を捉えることができます。一方、SARは昼夜や天候を問わず撮像できる能力を持ち、これは特定のミッションにおいて大きな差別化要因となります。RFセンサーは、無線信号を監視し、シグナルインテリジェンス(SIGINT)の獲得に貢献します。自動船舶識別装置(AIS)は、様々な船舶が発信する位置情報を示します。これらの異なる種類のデータセットに対して後述する「データキュレーション」を行うことで、地理的・時間的な一貫性と品質が保証され、複数のデータを組み合わせた高度な分析(インサイトの抽出)が可能になります。
データキュレーション:分析の質を高める鍵
データフュージョンとは、単に複数のデータセットをまとめることではありません。その重要な側面の一つに「データキュレーション」があります。これは、データを分析に適した形に「整える」プロセスです。衛星データに関して言えば、重要な要素の一つは画像の位置精度です。各センサーには固有の空間誤差があるため、同じ場所を対象とした複数の画像を単純に重ね合わせると、位置がずれてしまいます。データキュレーションのプロセスには、まず、すべてのデータセットの位置情報を地理的に正確に一致させる作業が含まれます。
次に、撮像の幾何学的な一貫性(ジオメトリ)の問題があります。例えば、SAR衛星が異なる角度(オフナディア角)で画像を撮影すると、影のでき方も変わってきます。干渉SAR(InSAR)のような高度な分析を行うには、このジオメトリの一貫性が不可欠です。そのため、データフュージョンを検討する際には、「そもそも、それらのデータは融合できるのか?」「融合を前提としたデータ収集は可能なのか?」といった問いが重要になります。その他にも、画質(センサーノイズのレベルなど)や撮像時刻といった要素も、データキュレーションで考慮すべき点です。
こうしたデータキュレーションを経て初めて、データは「分析対応データ(ARD: Analytics Ready Data)」となり、AI/MLモデルや移動目標物検知(MTI)といったアルゴリズムを用いた高度な分析ワークフローに投入できるのです。データキュレーションはノイズを最小限に抑え、これらのアルゴリズムが複数のモダリティから一貫した知見を生み出すことを可能にします。
データフュージョンの活用例
特に、国家安全保障に関する以下の4つのミッションは、データフュージョンの有効性を示す好例です。
- 基盤地理空間情報(GEOINT)の整備:地図の作成や、地球に関する基礎的な情報を構築します。
- 広域捜索:国や大陸といった広大な範囲で、特定の物体を探索します。
- 早期指標・警告(EI&W):特定の地点を継続的に監視し、活動パターンを把握した上で、早期警告の引き金となる異常や変化の兆候を検知します。
- 追跡・監視:船舶、航空機、車両などの特定の物体を継続的に追いかけます。
具体的なユースケースを2つ見てみましょう。
一つ目は海洋モニタリングです。SARを使えば、船舶の種類、大きさ、進行方向、速度などを検出できます。しかし、そのSAR画像にAISデータを重ね合わせることで、AISを意図的に停止したり、位置情報を偽装したりしている、いわゆる「ダークベッセル」を特定できます。これこそ、単一のセンサーだけでは決して得られない高度な情報です。
二つ目は災害被害評価です。例えば、台風の後に倒壊・損傷した建物を特定したい場合、SARは厚い雲を透過できるため、天候に左右されずに災害直後の状況を捉えられます。そして高度な分析を用いることで、どの建物がどの程度の被害を受けたかを正確に特定できます。そこに、後日撮影された光学画像を加えれば、救助隊が状況を視覚的に把握するための貴重な情報となります。これら複数の情報を組み合わせることで、現地調査員が目視で確認するといった従来の手法よりも、はるかに迅速かつ効率的に、そして網羅的に被害状況を評価できるのです。