前回のブログでは、複数の情報源から得た情報を統合する「データフュージョン」が、現代の地理空間情報(Geospatial Intelligence)にとっていかに重要かをお話ししました。今回は、マルチセンサーの仮想コンステレーションを活用した高頻度な監視や特定の物体の継続的な追跡において、この技術が実際にどのように機能するのかを見ていきましょう。

最も実用的な応用例の一つが、頻繁な監視と物体追跡に用いられる、検知と観測指示(以下、Tip and Cue)と呼ばれる手法です。その仕組みはいたってシンプルです。まず、SARであれ光学(EO)衛星であれ、数百から数千平方キロメートルに及ぶ広大なエリアの画像を取得します。その中から関心のある対象物や、特定の追跡対象を識別します。次に、他のセンサーに対して「ここが対象物の予測される緯度経度なので、この時間帯に次の画像を撮影してほしい」と観測を指示するのです。

港湾監視を具体例として挙げましょう。例えば、SAR衛星が午前1時に、前日にはいなかった複数の船舶が現れるという不審な動きを港で検知したとします。SARの物体検知機能により、港に新たに出現した船の正確な座標が提供され、自動船舶識別装置(AIS)データと照合した結果、いくつかの船舶が送信するGPS位置情報に異常が見つかります。その後、光学衛星は日中の通過時に、このAIS送信に異常のあった船舶の特定の座標のみに焦点を当て、これらの船舶の高精細な画像を撮影することができます。

Tip and Cueは、センサーが最も価値を発揮するタイミングと場所を指示することで、マルチセンサーの仮想コンステレーションの利用効率を高めます。一つのセンサーからの「Tip」(検知情報)が緯度・経度を提供し、他のセンサーに新たな関連情報を収集させるための「キュー」(観測指示)を与えます。このサイクルは、数時間から数日間に及ぶ特定のミッション期間にわたって繰り返されます。さらに、Tip and Cueは、SAR、光学(EO)、電波(RF)、AISといったセンサーの組み合わせだけでなく、宇宙、空中、地上、海上といった複数の領域からの情報、そしてOSINT(オープンソース・インテリジェンス)なども活用される事例があります。

仮想コンステレーションにおけるTip and Cue:技術的課題への取り組み

商業衛星の事業者はそれぞれ異なる仕組みで衛星のタスキング(撮像要求)を行っており、近年、この運用を効率化するためのタスキングAPIを構築する企業も出てきました。解決すべき重要な課題の一つは、人を介さずに複数の商業衛星間でTip and Cueを行うためのM2M(マシン・ツー・マシン)インターフェースです。高速で移動する物体や一刻を争う脅威を追跡する場合、人間による意思決定が数分遅れるだけで、ターゲットを完全に見失いかねません。物体を継続追跡するような、時間的制約の厳しいミッションにおいては、業界全体でこの問題の解決に取り組む必要があります。

Synspectiveは、お客様のミッションをサポートするため、低遅延で応答できるコンステレーションを設計しています。また、自社衛星の利用可能状況を共有し、仮想コンステレーションの連携を可能にするタスキングAPIを開発しました。

頻繁な監視と物体追跡のためのSAR活用

Synspectiveでは、SAR画像は人が解析することも可能ですが、その真価は解析の自動化にあると考えています。SARは本来、AI/MLや、コンピュータに人間のような視覚機能を持たせるコンピュータビジョンといった技術が、天候を問わず24時間365日いつでも収集できる画像から、実用的なインサイトを引き出すために活用されるべきものです。

そのため当社では、創業当初から自社のStriX衛星コンステレーションだけでなく、他の公的・民間衛星のデータも用いた解析ソリューションを開発してきました。解析には、複数のSAR周波数(X、C、Lバンド)や光学画像を複合的に活用しています。現在では、物体検知サービスを含む6つの解析ソリューションを提供しており、高頻度監視や物体追跡のユースケースで、対象物を迅速に特定するために活用されています。当社の災害評価および洪水被害評価ソリューションは、緊急対応機関に低遅延で実用的なインサイトを提供できるよう設計されています。さらに、陸上・海上における移動目標表示のような技術開発にも取り組んでおり、物体の速度を割り出し、追跡目的で将来の位置を予測することに役立ちます。

これからの未来

業界は「Information as a Service(サービスとしての情報提供)」へと向かっています。顧客が求めているのは、自ら解析する必要がある生データではなく、インサイトです。この流れは、複数のデータソースを効果的に統合できる企業に有利に働きます。

今後は、異なる種類のセンサーを運用する企業間のパートナーシップがさらに増えると思います。各社がすべての能力を自社で構築しようとするのではなく、専門分野に特化し、それらを連携・統合していく方がはるかに効果的です。SAR衛星を運用する企業は光学衛星の企業やRFの専門家、解析ソリューション企業などと提携することで、より包括的なソリューションを生むことができます。

コンステレーションの規模が拡大しデータ量が増加するにつれて、複数のセンサータイプから実用的な情報を抽出する能力が、極めて重要な差別化要因となります。今後の成功は、個々のセンサー性能を最適化することではなく、多様なデータストリームをいかにして意味のあるインサイトへと変換できるかにかかっています。