著者:森下 遊 (Yu Morishita) / Principal SAR Application Engineer

概要

老朽化する社会インフラや広大なエネルギー施設の維持管理において、遠隔モニタリングの重要性が高まっています。衛星データを用いた監視手法にはいくつかのアプローチがありますが、対象物の「変動の規模」や「環境」に合わせて最適な技術を選択することが重要です。

本記事では、数m規模で大きく動くインフラ施設への最適なアプローチとして、Synspectiveの小型SAR衛星「StriX」の高分解能データと「Pixel Offset(PO)法」を組み合わせた高精度監視手法をご紹介します。米国クッシングの巨大石油タンク群(浮き屋根の上下動)を対象とした実証を通じて、インフラ管理におけるSAR衛星の適材適所な活用法を解説します。

 

背景

プラント、パイプライン、ダム、採掘場などの大規模インフラは、常に地盤沈下や構造物の変形リスクに晒されています。広大なエリアや危険地域の点検作業における人的リソース不足・安全確保の観点から、衛星を活用した遠隔モニタリングへの移行が進んでいます。

 

課題:監視対象の特性に合わせた「最適な技術の選択」

宇宙からのインフラ監視において万能な単一技術はなく、対象が「どれくらいの規模で動くか」「どのような環境下にあるか」によって、適切な手法を選択する必要があります。

  • 光学衛星・ドローン: 視覚的で直感的に状況を把握できますが、悪天候や夜間は観測できず、連続的な監視には不確実性が伴います。
  • 干渉SAR(InSAR): 電波の「位相」の差を利用し、数mm単位の微小な変化を捉えるのに最適です。一方で、短期間に数m規模で大きく動く対象(稼働中のタンク屋根など)に対しては「干渉性低下(デコリレーション)」が起こり、解析不能になる弱点があります。
  • Pixel Offset(PO)法:画像の「振幅」(ピクセル)の位置ずれを直接測定します。位相を使わないため、数m規模の大変位にも対応可能です。これまで精度面が課題とされてきましたが、StriXの0.5m以下の高分解能データを用いることで、1〜5cmというInSARに匹敵する高精度を実現しました。

 

 

ソリューション:大きく動くインフラに最適な「高分解能データ × PO法」

上記のような「InSARの得意領域を超える大きな変動」を継続的に監視するのに適しているのが、「Pixel Offset(PO)法」です。

PO法は、2枚の画像間の「ピクセル(振幅)の位置ずれ」を直接測定する技術であり、数m単位の大変位にも対応できます。PO法による計測精度は使用する画像の分解能に依存するため、従来のデータでは数十cm程度の誤差が生じていました。しかし、Synspectiveの小型SAR衛星「StriX」が取得する0.5m以下の高分解能データを活用することで、大変位への耐性を維持したまま、1〜5cm程度という高い計測精度を実現できるようになりました。

ユースケース:米国クッシングの石油タンク変動監視
「数m動く巨大インフラを、数cmの精度で全天候型監視する」という本手法の実用性を証明するため、米国の原油価格(WTI)の指標となるオクラホマ州クッシングの石油タンク群を対象に実証観測を行いました。
ここのタンクの多くは、原油の増減に合わせて屋根が数m上下する「浮き屋根式」であり、本手法のテストケースとして最適です。

  • 高頻度な継続観測: 2025年11月から2026年1月にかけ、StriXにより1日未満のサイクルで継続的に観測を実施。給油・排油に伴う数m規模の屋根の上下動を解析しました。
  • 多角的な評価による精度の実証: 異なる4つの方向からの独立した観測データの比較や、理論上の不確実性(ノイズ)との照合を行い、本手法が実運用に十分耐えうる信頼性を持つかを検証しました。

 

浮き屋根式タンクの構造図

 

解析結果:4方向の独立した観測が示す「cm単位」の高い整合性

本実証では、4つの異なる観測方向(昇交・降交 × 右視・左視)から得られたデータを、それぞれ独立して解析しました。解析の結果、個々のタンク屋根のアクティブな変位時系列を計測することに成功しました。

 

レンジ方向の位置ずれ(変位)の例

 

鉛直変位時系列

 

誤差評価の結果、各観測方向から導き出されたタンク屋根の鉛直変位量は、互いに極めて高い一致を示しました。異なる軌道・方向からの独立した解析結果が、鉛直方向の換算においてcm単位の誤差で整合した事実は、本手法の信頼性と精度の高さを裏付ける決定的なエビデンスとなりました。

また、理論的な不確実性と実際の解析残差を比較した評価においても、多くのタンクで相関係数0.7以上、残差のRMS(二乗平均平方根)が5mm未満という高品質な計測結果が得られました。これにより、広大な石油備蓄拠点の在庫管理を、宇宙から高精度かつ自動的に行える能力が実証されました。

 

今後の展望

インフラ監視においては、「微小な変動にはInSAR」「大きな変動には高分解能PO法」といったように、目的に応じて最適な技術を使い分けることが重要です。高分解能SARとPO法の組み合わせは、従来では詳細な計測が難しかったm単位に及ぶ大変位に対して、cm単位の高精度と10m程度の高分解能での計測を可能にしました。これにより、今回の石油タンクのような事例に限らず、局所的な側方流動に伴う建物や港湾施設の変位など、個々の人工構造物の位置ずれのモニタリングに新たな可能性をもたらしました。

Synspectiveが構築を進める30機以上の衛星コンステレーションが完成すれば、1日に複数回、地球上のあらゆるインフラを対象の特性に合った最適な手法で定常監視するシステムが実現し、より安全で効率的な社会基盤の維持に貢献します。

 

参考

  • 観測モード: 「Staring Spotlight 4(分解能 0.46m x 0.25m)」
  • 適材適所のアプローチまとめ:
    • > InSAR: 微小変位(mm精度)の監視に最適。
    • > 従来データによるPO法: 大変位の監視には対応するが、精度は画像の分解能に依存するため、大まかな把握(数十cm程度の誤差)向け。
    • > 本手法(高分解能PO法): m単位の大変位に対し、cm単位の高精度と10m程度の高分解能を実現。個々の人工構造物の位置ずれ監視に最適。