地球の表面の70%は海で覆われていますが、これまで衛星企業は海洋の撮像を避けてきました。海洋画像に対する商業的需要は限られ、データ保存・処理コストは膨大、監視するにはあまりにも広大すぎたためです。しかし、状況は変わりました。違法・無報告・無規制(IUU)漁業だけでも、世界中の沿岸経済に影響を与える数十億ドル規模の問題となっています。これに対し、カナダなどの国々は、商業プロバイダーとのパートナーシップを通じて、衛星によるIUU監視に数百万ドル規模のプログラムを投じています。監視されない海洋活動が経済安全保障に与える悪影響が認識され、現在、多くの国々が監視能力の向上に投資しています。

海洋監視を特に複雑にしているのは、監視対象が意図的に追跡を逃れようとする、その「敵対的」な性質にあります。船舶は自動船舶識別装置 (AIS) トランスポンダーを無効化して不審船(ダークベッセル)となり、実際の位置を偽装するために誤った位置情報を送信(スプーフィング)、あるいは公海上で他の船舶と合流して漁獲物を移し替える「瀬取り」を行います。これにより、最終的に世界中の市場に出回る違法漁獲物の出所を隠蔽しているのです。これらは小型漁船ではなく、多くが全長40~100メートルの産業用船舶で、国際水域で組織的に行動しています。

「見えない船」を捉える技術

船舶がAISを無効にした場合は、SAR衛星による検出情報と既知の船舶交通パターンを関連付けて捉えます。SAR画像に10隻の船が写っているのに、AISを発信しているのが9隻だけなら、体系的な比較によって「ダークベッセル」が特定されます。スプーフィングの検出も同様です。AISが船舶の位置を、SAR衛星で検出された実際の位置から100キロ離れた場所だと発信していても、その欺きは明らかとなります。

画期的なのは単一のセンサーではなく、複数の能力をインテリジェントに連携「オーケストレーション」させることです。CバンドSARは最大50万平方キロメートルの広域をカバーし、異常な活動領域を特定します。その後、XバンドSARが詳細な画像を提供し、船舶の種類を分類し、針路と速度を決定するのに十分な解像度をもたらします。この検知と観測指示 (Tip and Cue) アプローチは、行動可能なインテリジェンスに必要な精度を維持しつつ、カバレッジを最大化します。

最近行った24時間の海上追跡演習では、従来の衛星監視の限界を試すような課題に直面しました。2隻の船舶を公海上で継続的に追跡するというミッションです。SAR衛星、光学(EO)、無線周波数(RF)、およびAISのデータを融合させ、StriX衛星からの画像を2時間以内に配信することで、これらのターゲットを捕捉し続けました。

マルチセンサー・フュージョンにおいて、位置精度は依然として大きな課題です。イメージングシステムごとに位置の不確実性の程度は異なり、移動するターゲットを追跡する場合、これらの誤差は時間とともに蓄積・増幅していきます。予測分析では、この増大する不確実性を考慮に入れなければならず、観測と観測の間に「確率ゾーン」が拡大していきます。この演習は、船舶が拡大する探索エリア内のどこにでもいる可能性がある場合、ピンポイントの精度よりも広域カバレッジが重要である理由を実証しました。予測位置が数キロずれる可能性がある状況では、20 x 50キロメートルの撮像幅を持つ能力が不可欠になるのです。

業界のトレンドは、より大規模な衛星コンステレーションが世界中でより頻繁な再訪(観測頻度)を可能にすることを示しています。Synspectiveでは、現在の5機体制から2030年までに30機以上に拡大すべく、打ち上げ計画を進めています。しかし、衛星の数を増やすことだけでは不十分です。重要なことは、観測・検知から意思決定までの時間を短縮することです。衛星業界全体で開発が進行しているニアリアルタイムのタスキング能力とオンボード処理は、数時間ではなく数分以内に処理済みのインテリジェンスを配信することを目指しています。この低レイテンシー・アーキテクチャは、沿岸警備隊や海軍機関が違法行為に対抗するために行動可能なインテリジェンスを必要とするため、海上法執行のあり方を根本的に変える可能性を秘めています。

運用面での課題

今までの監視技術で必要だった人的コストを鑑みると、迅速で行動可能なインテリジェンスの必要性が高まっていますが、最高な技術をもってしても、重大な運用上の課題は残ります。多くの国は、正確なインテリジェンスにアクセスできたとしても、それに対応する物理的な海洋監視リソースを欠いています。関与する距離が広大であるため、巡視船が現場に到着する頃には、ターゲットはすでに移動してしまっています。さらに、海上法執行には複雑な管轄権の問題が伴い、船舶はしばしば国際水域で活動したり、異なる排他的経済水域 (EEZ) 間を移動したりします。

海上の違法活動は、法執行の取り組みに迅速に適応します。これらのネットワークは、一つのアプローチが侵害されるとルートや方法を適応させ、異なる海域や管轄区域に移動して検出を回避します。麻薬密輸、石油窃盗、武器密売のいずれを追跡する場合でも、この機敏性に対抗できるのは、迅速な対応能力と組み合わされた、持続的かつ広域な監視だけです。課題は、単に船舶を検出することではなく、移動のパターンを理解し、将来の行動を予測することです。

私たちは、継続的な海洋監視が技術的にも経済的にも実行可能になる転換点に近づいています。政府と民間の資産、複数のセンサータイプ、自動化された分析を組み合わせた「バーチャルコンステレーション」は、個々のシステムでは不可能なこと、すなわち広大な海域にわたる持続的な監視を実現できます。これらの能力とAI(人工知能)および機械学習アルゴリズムの統合により、人間のアナリストでは不可能な規模でのパターン認識と異常検出が可能になります。

不透明さを取り払う

事後対応的な海洋安全保障から、予測的なものへの進化は、遠くない未来に実現する可能性があります。船舶の行動パターンを分析し、異常を特定し、将来の位置を予測することで、私たちは違法行為を単に「検出する」ことから「防止する」ことへと移行できます。IUU漁業や海上密輸に対処する技術は、すでに存在しており、生の画像を実用的なインテリジェンスに変換するための分析ツールを開発している企業もあります。各国政府もリソースを割り当て、国際協力のための枠組みを整備し始めています。

今後は、この情報に基づいて効果的に行動するための運用メカニズムを構築することも求められます。海洋はあまりにも長い間、不透明なベールに包まれてきましたが、このような技術的進歩によって、その不透明さはようやく取り払われつつあります。



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