Synspectiveは、2018年に創業した人工衛星の開発・打ち上げ・データ取得や分析を行なっている企業です。宇宙ビジネスに関する報道を目にする機会は増えている一方、各社がどのようなサービスを提供しているのかは、まだまだ一般に理解されていないのが現状です。そこで、私たちは「Synspective ウェビナーシリーズ」と題して、事業内容や技術を紹介するセミナーを開講してきました。

今後、ウェビナーの内容は連載形式で掲載していきます。お楽しみに!今回は、導入編として、Synspectiveのサービス内容とミッションを解説します。


人工衛星ビジネスの要となる「SAR衛星」とは?

私たちの提供するサービスを理解してもらうには、SAR衛星への理解が欠かせません。SARってなに? 聞いたことない。という人がほとんどでしょう。そもそもは、Synthetic=合成 aperture=開口、Radar=レーダーの略で、マイクロ波を発して地表を観測する人工衛星のことを言います。

 

 

SAR衛星は自らマイクロ波を発し、観測対象から跳ね返った電波を受信します。このデータを画像化することで地表を観測することができるのです。

 

従来型の光学衛星(搭載したカメラで写真を撮影できる衛星)は、光源のない夜間や雲がかかっている雨天に、地表の様子を把握することは困難でした。しかし、SAR衛星が発信するマイクロ波は雲を透過して、夜間でも地表データを取得できます。ゆえにSAR衛星は24時間、広範囲にわたって、悪天候であろうと地表の様子を観測することが出来る画期的な衛星なのです。さらに、SAR衛星をコンステレーション化(衛星群化)することにより、高頻度の観測が可能になります。

 

2020年12月に打ち上げた実証機StriX-αによって、インドを代表する商業港湾都市ムンバイを
スライディング スポットライト モードにて撮像しました。(2021年6月)

 

今、地球で何が起きているのか?
SAR衛星には、それが分かります。

24時間、広範囲の地表データが取得できるようになるとどのような恩恵を受けられるようになるのでしょうか? 

・建築や道路など、都市計画の開発状況

・水害時の浸水範囲

・地滑り等の被害範囲

・海上の船舶の位置情報

などの情報を観測可能になります。

 

都市の開発状況は不動産ディベロッパー、水害や地滑りの被害範囲は消防関係者や保険業者から求められ、船舶の位置情報は海運業者など、対企業の様々な需要が見込めます。

そのほかにも、農作物の生育情報を観測すれば農業用保険に役立てられますし、アナリストがリーディングカンパニーの主要工場駐車場をモニタリングすれば、業界の生産動向を把握できます。

すでに工場の駐車場モニタリングは可能になっており、小型SAR衛星で毎時1回の定点観測を行い、時間の経過に伴う占有スペース数の分析ができます。

同様のデータを取得すれば、商業施設の駐車スペースを高頻度に確認でき、1日の売り上げを大まかに推測することも可能です。さらに1年を通してデータを取得すれば、おおよその繁忙期を把握して、経済動向を予測することができます。

このように地表を定点観測することで、今まで取得できなかった様々なデータが得られるようになります。従来は属人的な経験で判断されていたことがデータドリブンで動かせるようになり、様々な業界で効率化が進むはずです。

Synspectiveはデータ需要に応えるため、小型SAR衛星衛星の製造や打ち上げ、データ取得、解析、ソリューションの開発まで、ワンストップでサービスを提供しているのです。

 

what we do

 

機械学習プログラムが「衛星データ」に価値を与える

前段でお伝えしたように、SAR衛星が取得したデータは様々な用途に使えますが、そのままでは分析は困難です。せっかく定点観測をしても、人の目には微細な変化は見つけづらく、有効に利用できません。

そこで出番となるのが、機械学習プログラム(コンピューターがデータを反復学習し、パターンを見つけ出して、学習の結果を新たなデータに当てはめる技術)です。この技術を用いれば、データ分析を自動化して、情報を効率よく解析できるようになります。

 

機械学習説明

 

先ほどご紹介した駐車場のケースでは、航空衛星写真から機械学習プログラムで駐車場の区画数を抽出しました。その後、プログラムで「抽出された区画数」と「SAR画像」を比較することで、占有率を割り出しています。

このように、衛星データを有効に活用するためには、活用方法に応じた機械学習ソリューションが必要です。どのようにデータを分類して、画像から何を抽出し、ダッシュボードに何を表示するのか。ニーズに応じたカスタマイズが求められます。

私たちは創業以来、衛星データから地殻変動を解析する「Land Displacement Monitoring」や、浸水被害を解析する「Flood Damage Assessment」などの機械学習プロダクトを開発・発表してきました。

 

roadmap

 

このノウハウを活かし、Synspectiveはニーズに合わせた「データ提供」と「分析ソリューション」を提供しています。

 

 2030年までに30基の衛星を打ち上げ、人々の進歩を実現する

私たちは2020年に第一号のSAR衛星「StriX-α」を打ち上げました。しかし、1基だけではカバーできる範囲に限度があり、地球全土を頻繁に観測することはできません。

この課題を解決するため、現在は他社と提携して衛星データを取得。将来的には自社でデータ取得が完結できるよう、2030年までに30基の衛星打ち上げを予定しています。

 

 

従来、宇宙開発と言えば、多額の資金がかかる国家的なプロジェクトでした。しかし現在は、全世界で民間のスタートアップが参画する市場へと変化しています。

市場の変化をもたらしたのは「技術の革新」です。SAR衛星の分野でも近年の技術革新により、小型軽量化が進みました。たとえば、Synspectiveが製造しているSAR衛星「StriX」は、旧世代のSAR衛星に比べて重量が1/10、コストは1/20に減少しています。

 

 

現在も海外の様々な企業が衛星を打ち上げており、SAR衛星データは近い将来ビジネスの現場はもちろん、人々の重要な情報インフラのひとつになるとSynspectiveは考えています。将来的には天気予報のように身近な存在になり、人々の生活様式を変えていくでしょう。私たちのミッションは「新たなデータとテクノロジーにより人の可能性を拡げ、着実に進歩する『学習する世界』の実現」です。この使命を果たすため、衛星開発・運用そしてコンステレーション(衛星群)の構築からデータ取得、解析、ソリューションをワンストップで提供できる体制を構築していきます。

ウェビナーレポートは今後も掲載を続けていく予定です。SAR衛星の活用法やプロダクトの実例をより詳細に紹介していきますので、今後の記事にご期待ください。

※本記事は2021年6月22日に開催したウェビナー「SAR衛星データによる機械学習を活用したObject Detection(物体検出)ソリューション」の内容をもとに、再構成したものです。

 

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