2022年6月から続くモンスーンの記録的な大雨に、北部の山間部の氷河融解が追い打ちをかけ、パキスタン全域で大洪水が発生しました。国土の3分の1が水没するなど大規模な被害が発生しており、現在も洪水による被害は継続しています。被災された現地のみなさまには心からお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復興を心からお祈り申し上げます。

 

今回、Synspectiveではパキスタン全域で発生した浸水被害状況を、広範な地域を迅速に、浸水被害を評価することが可能なFlood Damage Assesment (FDA)を用いて解析しました。観測データは、2022年8月30日午前1時26分(UTC)Sentinel-1 SAR衛星データを使用し、特に被害が大きくなっているパキスタン南部インダス川周辺の被害状況を対象としています。

 

 

解析結果

解析結果に基づく浸水域推定図は下記のとおりです(図中の青色部分が解析によって得られた推定浸水域)。

FDAによるパキスタン洪水の解析図

©Mapbox, ©OpenStreetMap and Improve this map, ©Copernicus Sentinel data [2014-2022], ©Synspective Inc.
FDAによるパキスタン洪水の解析図
※青枠線:FDAによる解析対象範囲

解析結果から推測される被害状況

FDAによる解析の結果、今回解析対象としたパキスタン南部インダス河口付近からラルカナ周辺まで(図青枠内)、インダス川流域を中心に広範囲に浸水被害が発生していることが推測されます。さらにパキスタンのシンド州にあるハイデラバードやダードゥ、ラルカナといった都市部においても大規模な浸水被害が確認されたことから、現地住民への甚大な被害が拡大することが懸念されます。

 

ソリューションの特徴

  • 対象地域でどの道路・建物が浸水しているか3Dで可視化・定量把握が可能
  • 直感的なユーザーインターフェース
  • PDFレポートでの出力

 

他の観測データとの相違点

  • 道路や建物の浸水情報による広範囲の観測
  • 人による確認や解析が不要な自動解析
  • 河川の水位計などの地上観測データに加え、浸水範囲及び浸水深度情報も把握可能

 

まとめ

災害発生時には正確な情報に基づき、被害状況に応じた迅速な対応が必要となります。

Synspectiveは、独自の小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・運用を行っており、すでに運用を開始した初号機を含め、2026年前後には30機のコンステレーション構築を目指しています。低軌道を周回する30機のコンステレーションにより、世界のどの地域で災害が発生しても、2時間以内に衛星が到達し観測することが可能となります。(国内任意エリアでは最短間隔数十分で撮像が可能となります。)

従来の光学衛星や航空機・ドローンによる観測方法とは異なり、SAR衛星は全天候型の地上観測が可能なため、より広い範囲での浸水被害の有無を迅速に把握することが可能です。

さらに、機械学習技術などの最先端の解析手法を活用することで、上記のように道路や建物などの施設への影響範囲を把握することができます。

将来的には、小型SAR衛星コンステレーションから得られるデータをFlood Damage Assessmentに組み込むことで、浸水被害をより迅速に把握することが可能となります。これにより、公的機関においては浸水地域への救助や支援、人員配置の優先順位付けに、保険会社や自社設備を持つ企業では、浸水被害を迅速に把握し、意思決定にデータを活用することができます。

 

 

2021年8月佐賀県 六角川で発生した浸水状況の解析を実施

2019年(令和元年)台風19号による阿武隈川洪水の解析