概要

山間部のトンネル工事や道路の維持管理において、斜面の地すべりや地盤変動を広範囲かつ面的にモニタリングすることは、安全確保の要となります。従来の現場計測は特定の地点を高い精度で捉える一方、計測機器が設置されていない箇所を含む斜面全体の挙動を俯瞰的に把握することには限界がありました。

本記事では、地質調査・斜面防災の専門企業である奥山ボーリング株式会社との共同プロジェクトとして実施した、地盤変動モニタリングの事例をご紹介します。広域観測が可能なLバンド合成開口レーダ(SAR)を搭載したJAXAの衛星「ALOS-4」および「ALOS-2」のデータと、高度な干渉解析手法(Phase Linking解析・2.5次元解析)を組み合わせることで、現場の実測データと極めて高い整合性を示す変位を、広域にわたり面的に取得することに成功しました。

 

背景

地すべりリスクの詳細な把握が課題である国道周辺の調査地域では、特定地点の観測だけでなく、斜面全体の地盤変動を広範囲・面的に、かつ時系列で把握することが求められます。

現場に設置された計測機器は、設置地点の変動を高い精度で連続的に捉えることができます。一方で、観測できるのはあくまで「点」であり、計測機器のない箇所の変動や、斜面全体としての挙動を俯瞰することは困難でした。そこで、点の観測を補完し、斜面全体の動きを「面」として捉える手法の導入が急務となっていました。

 

課題:広域かつ多方向(3次元的)な変位の把握

点の観測を「面」へと拡張する手段として有力なのが、SARデータ解析(衛星SAR画像を用いた干渉解析)です。しかし、これを地すべり地に適用するには、二つの技術的な課題がありました。

一つは、変位の「方向」の把握です。一般的なSAR干渉解析では、衛星と地表を結ぶ視線方向(1次元)の変動しか捉えることができません。しかし、複雑な地質・地形を持つ地すべりエリアでは、地面が「沈下しているのか(鉛直方向)」、それとも「斜面下方に移動しているのか(水平方向)」を正確に分離して把握する必要があります。

もう一つは、植生によるノイズです。山間部特有の植生は電波の反射を不安定にし、解析の精度を損なう要因となります。広域を安定して、かつ高精度に解析するには、このノイズを抑制する仕組みが不可欠でした。現場計測(点)とSARデータ解析(面)は、それぞれ異なる強みを持ち、互いを補完する関係にあります。

 

ソリューション:Phase Linking解析」と「2.5次元解析」の組み合わせ

これらの課題に対し、Synspectiveは二つの先進的な解析手法を組み合わせて適用しました。

> 植生ノイズへの対応 ― Phase Linking(PhL)解析
Phase Linking解析は、複数枚のSAR画像を統計的に処理することでノイズを低減し、安定して変位を取得できるピクセル数を増やす、高精度な時系列干渉解析手法です。これにより、従来は解析が難しかった植生域などの土地被覆ある箇所でも比較的安定した計測が可能となり、山間部の斜面全体をより高精度に、面的に捉えることができます。

> 変位方向の分離 ― 2.5次元解析
さらに本プロジェクトでは、ALOS-4およびALOS-2が異なる方向から観測した「北行軌道(西側からの観測)」と「南行軌道(東側からの観測)」の解析結果を合成する2.5次元解析を実施しました。これにより、単一軌道では困難だった鉛直方向と東西(水平)方向の変動を分離して算出できるようになり、「鉛直方向の変動」と「水平移動方向」を区別した立体的な地すべり移動方向の把握を実現しました。

なお本解析では、ALOS-2/ALOS-4が2014年から2025年にかけて観測した画像から、干渉解析に適した14ペアを選定しています。積雪の影響を受ける冬季(12〜3月)の画像は対象から除外し、観測条件の揃ったデータを用いることで、約10年にわたる長期的な変動傾向を安定して捉えることができました。

 

 

解析結果:現場計測データと整合する、高精度な変動量の面的検出

解析の結果、地すべりブロック周辺の微細な挙動を明確に捉えることに成功し、その結果は奥山ボーリングが委託業務で現地計測した実測データと極めて高い整合性を示しました。

図1. 2.5次元解析による累積鉛直変動量の面的分布(2014〜2025年の時系列データに基づく)。両岸の地すべりブロック周辺にて約10年間で約100mm程度の沈下傾向(図中矢印部分)。

国土地理院の基盤地図情報を加工して作成、防災科学技術研究所 地すべり地形GISデータを加工して作成、©JAXA[2014-2025]、© Synspective Inc.

 

図2. 2.5次元解析による累積水平変動量の面的分布(2014〜2025年の時系列データに基づく)。両岸の地すべりブロック周辺にて約10年間で右岸側は西へ40〜100mm程度(図中矢印部分)。

国土地理院 基盤地図情報を加工して作成、防災科学技術研究所 地すべり地形GISデータを加工して作成、©JAXA[2014-2025]、© Synspective Inc.

 

両岸側の地すべりブロック周辺において、約10年間で約100mm程度の沈下傾向を確認しました。また、右岸側の地すべりブロック周辺では40~100mm程度「西側」へ変動する傾向が確認されました。特に水平移動方向の地すべり移動方向について、現場計測データと極めて高い整合性を示しました。

本解析結果での傾向から、地形や地すべりブロックの構造、斜面の傾斜方向に応じた複雑な変位を、正確に面的に捉えることに成功しました。

 

 

今後の展望:宇宙からの面的監視による、インフラ管理の高度化

今回の奥山ボーリング様との共同プロジェクトにより、JAXAのSAR衛星「ALOS-4」および「ALOS-2」を用いた2.5次元時系列干渉解析が、実際の地すべり・斜面観測において信頼性の高いエビデンスを提供できることが実証されました。

現地計測による「点」の観測と、SARデータ解析による「面」の観測を密に組み合わせることで、危険箇所の見落としを防ぎ、より安全で効率的なインフラ維持管理体制を構築できます。Synspectiveは、JAXA認定のALOS-4データ・サービス事業者としての強みを活かし、今後も高精度な衛星ソリューションを通じて、防災およびインフラ管理の高度化に貢献してまいります。