概要

インフラ・環境分野における平時のモニタリング業務は、自治体にとって大きな負担となっています。特に、広域に点在する「盛土」の安全管理は、人員・予算の制約から、効率化が急務となっています。

本記事では、佐賀県様の「令和7年度 衛星データの活用可能性実証事業」の一環として、建設コンサルタントの株式会社フジヤマとの共同事業体で実施した、ESAの光学衛星「Sentinel-2」と、広域観測が可能なLバンド合成開口レーダ(SAR)を搭載したJAXAの衛星「ALOS-2」「ALOS-4」を融合した、盛土・地形変化モニタリングの実証成果をご紹介します。無償衛星データの活用と機械学習を組み合わせた新ソリューションにより、従来手法では捉えきれなかった変化箇所を網羅的に抽出することに成功し、加えて従来調査と比較して50%以上の費用縮減が期待できることも示されました。

 

背景

近年の盛土関連の災害を契機に、全国の自治体において盛土の安全管理体制の強化が求められています。佐賀県でも、関連法令に基づく基礎調査として、盛土の抽出・把握が進められてきました。

しかし、限られた予算と人員で広域に点在する盛土を継続的に追跡し続けることは、自治体にとって大きな負担となります。現場踏査や有償衛星画像に依存した従来手法に代わる、より低コストかつ網羅性の高いスクリーニング手法の確立が急務となっていました。

 

課題:コストと網羅性のトレードオフをいかに解消するか

従来の手法では、高価な高解像度衛星画像を用いることで画像費負担が大きいことに加えて、新規撮像した画像に雲がかかってしまうなど解析条件に適した画像を取得するのに時間がかかってしまいコストが高止まりしていました。また、従来の光学衛星画像を活用した手法では誤検知や見逃しが多く発生してしまう可能性があり、「調査コストの大幅な削減」と、「変化箇所の見落としを防ぐ網羅性・精度」を同時に満たす新しいスクリーニング手法が必要でした。特に、伐採後に低植生が回復した箇所では光学衛星単独での検出が困難となり、変化箇所の取りこぼしが生じます。

ソリューション:無償光学衛星×有償SAR衛星×機械学習の三層構成

Synspectiveは、建設コンサルタントであるフジヤマと共同事業体を組み、3つの技術を組み合わせた新ソリューションを設計・実証しました。

  1. Sentinel-2による2時期NDVI解析(光学):
    ESAが12日周期で定期撮像し、無償公開しているSentinel-2の画像から、植生指数NDVI(Normalized Difference Vegetation Index)の変化を捉え、盛土による植生消失や地表改変を検出します。豊富なアーカイブ画像と無償アクセスにより、画像選定の工数と費用を大幅に削減できます。
  2. ALOS-2/ALOS-4によるSAR強度差分解析:
    光学だけでは捉えにくい地表面の物理的形状変化(盛土・切土等)を、JAXAのLバンドSAR衛星「ALOS-2」「ALOS-4」の強度画像を時期間で比較するSAR強度差分解析で抽出します。SARは雲や植生の影響を受けにくく、特にLバンドは植生回復後の盛土箇所の検出にも有効です。SynspectiveはJAXA認定のALOS-4データ・サービス事業者として、最新のALOS-4データを活用したコスト効率の高い解析を提供します。
  3. 機械学習を活用したノイズ低減・抽出技術:
    無償衛星による観測データの分解能は、有償衛星に劣る側面がありますが、Synspectiveが独自に開発した機械学習アルゴリズムによって、低分解能データから盛土候補を高精度に抽出します。これら3つの技術を組み合わせることで、精度を維持しつつ大幅な低コスト化を実現しました。

 

解析結果:抽出数を17から151箇所へ拡張し、従来比50%以上の費用縮減が期待できる経済性

佐賀県佐賀市(約431km²)を対象に、2017年から2025年の解析期間で実証した結果、新ソリューションは従来手法を大きく上回る成果を示しました。

  • 網羅性の向上(抽出数 17 → 151箇所):
    新手法は、現手法で抽出された17箇所のうち15箇所を再現しつつ、現手法では捉えられていなかった約130箇所の変化を新たに検出し、合計151箇所を網羅的に抽出しました。光学(Sentinel-2)とSAR(ALOS-2/ALOS-4)を併用することで、植生が回復した箇所でも形状変化を捕捉でき、見落としを大幅に削減しています。
  • 従来比50%以上の費用縮減が期待できる経済性:
    有償の光学衛星画像を無償のSentinel-2に置き換え、最新のALOS-4を活用することで、佐賀県全域(約2,500km²)を対象とした試算では、従来調査と比較して50%以上の費用縮減が期待できることが示されました。対象地が広域になるほどコスト削減効果が高まる構造となっており、自治体による継続モニタリングの持続可能性が大きく向上します。

 

今後の展望:持続可能な行政モニタリングの実現へ

本実証を通じて、衛星データを用いた「広域かつ低コストなスクリーニング」が、自治体の持続可能なインフラ管理において極めて有効な手段であることが示されました。

一方で、伐採範囲が時間をかけて徐々に広がるような漸進的(ぜんしんてき)な変化については、現アルゴリズムでも検出が難しい箇所が一部残っています。今後は、対象期間の開始時・終了時のNDVI差分も考慮したアルゴリズムを組み込むことで、こうした変化箇所の抽出精度をさらに高めていきます。

Synspectiveは、ALOS-4データ・サービス事業者としての知見を活かし、自治体・インフラ管理者の課題に寄り添った、より効率的で信頼性の高い衛星モニタリングソリューションの社会実装を推進してまいります。