私たちSynspectiveは2018年の創業以来、人工衛星の開発・打ち上げ・データ分析を行い、宇宙ビジネスの発展に邁進してきました。事業内容や技術を紹介する記事としてお送りしている本連載。前回は「Synspectiveのサービス内容とミッション」を解説しましたが、今回はビジネスのカギとなる「SAR衛星」について、取得できるデータや活用法を深掘りしてご紹介します。
※下記動画は、日本語字幕が用意されております。字幕をONでご利用下さい。
■SAR衛星は「リモートセンシング」の一種
表題にあるSAR衛星とは、能動的にマイクロ波を照射して地表を観測する人工衛星です。SAR衛星は「リモートセンシング」と呼ばれる技術の一種で、これは「計測するものに触れずに調査できる技術」の総称です。他にも、光学カメラを搭載したドローンや航空機、人工衛星などが該当します。
リモートセンシングに用いるセンサは計測対象によって得手不得手があり、SAR衛星の場合は広範囲の観測に適しています。1800㎢以上の地表を観測することができ、大都市を一度の観測で捉えることも可能です。一方でドローン等のように、人々の表情や壁面のひび割れといった細かい物体を捉えることはできません。
※広域をモニタリングする場合を想定
SAR衛星に近いリモートセンシング手法には光学衛星があります。「光学衛星」は宇宙に浮かぶ大きなデジタルカメラのようなもので広範囲を一度に観測できますが、太陽光の反射を用いるために悪天候時や夜間には観測ができません。一方「SAR衛星」は雲を通過できるマイクロ波を観測に用いるため、悪天候時や夜間の観測ができるようになり、光学衛星の弱点を克服しています。
■用途を分けるSAR衛星の「バンド」とは
ここまで概要をご紹介したSAR衛星は、観測に用いるマイクロ波(電磁波)の長さによって観測特性が異なり、いくつかの種類に分類されます。マイクロ波をはじめとする電磁波の波の長さを波長といい、波長の幅を波長帯(バンド)といいます。
私たち人間が肉眼で見えている電磁波は「可視光線」と呼ばれ、一般的なデジタルカメラは光学センサによって可視光線を観測しています。地球上の物体は構成する物質の種類や状態に応じて、異なる波長の電磁波を反射・吸収あるいは透過するため、観測した電磁波の反射強度等を利用すれば物体の識別が行えます。
SAR衛星の観測に用いられるマイクロ波は可視光線よりも波長が長く、目には見えない電磁波です。地球観測に運用されているSAR衛星では主に「X」「C」「L」といったバンドが用いられており、波長は「X」<「C」<「L」の順番に長く、それぞれ得意な観測対象が異なります。Synspectiveが開発・運用しているSAR衛星「StriX」は、比較的に波長が短い「X」バンドを採用しています。
照射するマイクロ波の波長が変わると、観測にはどのような影響が出るのでしょうか?
最も波長が短い「X」バンドのマイクロ波は大きな物体を透過せず、葉や枝といった地物からも反射します。そのため、植生の変化や人工物の微小変動等の観測に適しています。一方、波長が長い「L」バンドのマイクロ波は、細かな対象物を透過する性質があります。葉や枝といった地物を透過するため植生の季節変化の影響が少なく、地すべりの兆候や火山活動などが観測対象に適しています。
このように、観測に用いるバンドによって把握可能な対象が分かれており、目的や対象に適したSAR衛星が必要です。一種類の衛星だけでは多様な需要には対応しきれないため、Synspectiveは他の衛星運用事業者や画像代理店と連携し、データを利活用できる体制を構築しております。
また、将来的には 2030年ごろまでに30基の小型SAR衛星を打ち上げ、自社衛星による高頻度なデータ取得およびサービス提供を目指しています。
■SAR衛星が取得できるデータは多種多様
次はSAR衛星が取得できる情報についてご紹介しましょう。SAR衛星が観測するデータには「振幅(強度)」「位相」の情報が含まれています。
「振幅(強度)」とは、SAR衛星が照射したマイクロ波が観測物にぶつかり、アンテナへ戻ってくる強さを表します。植物・土・水など、観測物の形状や特性によって電磁波を反射する強さは異なるため、その特性を利用すれば地表の様子を把握することができます。
■地殻変動から浸水被害の把握まで、SAR衛星で取得したデータの活用法
最後に、取得したデータをどのように活用しているのか、事例を紹介させていただきます。
まずは「地盤変動モニタリング」から。前述の通り、SAR衛星は全天候型で日中・夜間を問わず観測できるため、関心対象域を定期的に観測することが可能です。この利点を活かし、土地の安定性確認や変動の兆候を早期発見することが可能です。
特に、SAR衛星データに含まれる位相情報を用いることで対象物の歪みや地滑り、隆起や沈下といった微小変動をミリ単位で検出することができます。また、過去に観測されたデータを用いることで現時点から遡って変化を検出することができるので、時系列モニタリングにも適しています。
Synspectiveは地盤変動モニタリングのソリューションとして、2020年に「Land Displacement Monitoring 」をリリースしました。このサービスでは任意の対象地域について、ダッシュボード上で時系列の変動量をまとめて把握でき、地図上では各地点の変動量を表示することができます。また、時系列の変動量をグラフ表示や閾値に応じて分類する機能もあり、任意の形式でデータ出力が可能です。
SAR衛星のソリューションとして、「浸水被害の評価」でも強みを活かすことができます。
Synspectiveが2020年にリリースした「Flood Damage Assessment 」は、風水害等による浸水範 no囲や浸水深、被害を受けた道路や建物の情報を提供しています。観測された浸水被害についてダッシュボード上で統計情報をまとめて把握でき、地図上では地理的な分布を表示することができます。また、任意の範囲についてGISデータやPDF形式で出力することができ、迅速に関係者間で状況共有が可能です。
その他にも、海上船舶の検出や都市計画の進捗管理、農作物や森林伐採のモニタリングなど、SAR衛星による状況把握は多くの分野に適用可能です。
従来、広域の観測には多大なコストがかかっていました。そのため、高頻度な調査ができない、もしくは意思決定に十分なデータが集まらない場合がありました。近年、開発や打ち上げが活発化しているSAR衛星をツールのひとつとして用いることで、従来よりも安価にモニタリングすることができ、より多くのデータを収集することが可能です。今後、多様な産業分野にて衛星活用が進めば、客観的な情報に基づく意思決定や業務の効率化といったデータドリブン(Data-driven)な社会が期待されます。
Synspectiveはデータやサービスの提供だけでなく、ユーザーのニーズに合わせたソリューションの開発等も承っております。ご関心やご相談がございましたらお気軽にご連絡ください。
ウェビナーレポートは今後も更新を続けていく予定です。Synspectiveの事業や技術について詳しく解説を行いますので、引き続きご期待下さい!
※本記事は2021年7月8日に開催したウェビナー”SAR衛星の基礎知識”をもとに再構成したものです。